パーカーの録音  

 

周知の通りチャーリー・パーカーの演奏の録音状態はどれも非常に悪いです。それは録音年代の古さと、異常にプライベート録音の数が多いことが理由になります。
手作りのレコーダーで、天井に開けた穴からマイクをたらして隠しどりするような世界ですから、そりゃひどいものでしょう。

しかしながら、私個人にはパーカーの録音がよい状態になったとしても、必ずしも両手を挙げて喜べないものがあります。 

大きな声では言えないのですが、白状すると、たとえば私は個人的にはパーカー最良の録音といわれるSAVOYの録音がそれほど好きではないのです。

というのも、ずっと聴き続けていると、パーカーのアルトの音が鮮明すぎて、どこかしら金属的すぎて、サウンドに没頭できないのです。通常のスタジオ録音ではあたりまえのことですが、サックスの音が間近に迫るような録音は、パーカーには似つかわしくないような気がします。
パーカーの生のアルトの音というのは、野太すぎて何人も寄せ付けない強烈なものだとおもいます。もちろん真のパーカーフリークにはそこが良いのでしょうが、「音色が汚い」という人の意見も実は私にはわからないでもないです。
こんなこというと石を投げられそうですが、いてっ。

Copyright (C) 1997 Ross Burdick
BIRD's Group With CHET
でも、実際ライブで生のパーカーを聴いた人にはほんとうにこういう音が聞こえたのでしょうか。

たとえば、PAの発達していない時代に、100人くらいの入れるどこかのジャズクラブで、まあだいたい前から4、5列目くらいにいた人がパーカーを生で聴いたとして(あぁ、聴いてみたかった!)、はたしてSAVOYのような音が聞こえたのでしょうか。
 よっぽどパーカーの目の前にかじりつかない限り聞こえないんじゃないかとおもいます。
 

人々を魅了した、あのパーカーのサウンドは、あくまでその客席で聞こえたサウンドなのではないでしょうか。
 極端な話、客席にこっそりマイクを持ちこんで隠し取った録音は、ある意味でいちばん正しい録音ともいえるのではないかとおもいます。

ロス・ラッセルの著書「バードは生きている」のなかに、パーカーがクラブで演奏している様を記したこんな一説があります。 

「・・・彼の指は次々に音を繰り出す。音は群になり、房となって宙を舞う。黒いカーテンや低い天井は音をその場で消し去りはしない。だから、音は見るみる重なり合って膨れていく。やがて部屋中の空気がぎっしりと音で満たされる。・・・(中略)・・・ナイトクラブの室内はそれ自体巨大なサキソフォンのようだ。バードが力を込めて音を吹き出すと、部屋は震える。部屋中の空気が振動する。・・・」

パーカーのサウンドのなかで聴くべきは、アルトサックスの音だけではなく、こういった、部屋中に音が響く感じも含まれるとおもいます。その上で、あの、野太くエネルギッシュなくせに、神々しいほど突き抜けた、大空のように透明なサウンドが生まれるのだとおもうのです。それを堪能するにはクラブの客席でパーカーを聴くのが一番いいのかもしれません。 

そんなわけで、私にとって、かぶりつきで聴くようなSAVOYの録音は、パーカーを味わうには少々きついようにおもいます。最新のリマスタリングのものほどきつくなっていきます。同じスタジオ録音でもDIALなんかはそのきつさがなくなり丁度良いんじゃないでしょうか。SAVOYよりも録音がちょっぴり悪いだけ? 

また、ライブ録音については、トランペットかサックスかわからないほどノイズまみれの物ももちろん腐るほどありますけど、ある程度録音の質の良いものはスタジオ録音よりも、生々しさや、部屋に響くような感じを楽しめます。そのなかでもベストは、私の愛聴する音源の暫定ベストでもある 「’53年7月26日 OPEN DOOR」 でのセッションだとおもっています。ライブ録音、おそらく客席側での良い位置からの録音、良い録音状態(ある程度ね)、めずらしく三拍子そろっています。

 

1999. 2.14 よういち
 

 

Photos in this page is from "The Jazz Photography of Ray Avery"
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