Direct from Original SP Vol.1  

 

パーカーの音色については昔から自分の頭の中で整理のついていない部分がありました。それがSavoyのスタジオ録音での音色でした。
このサイトのオープン当初「パーカーの録音」という文章でわたしは「Savoyのスタジオ録音が好きではない」と書きました。Savoy録音でのパーカーの音のとらえかたに違和感を感じたためにああいう書き方になりました。

「・・・というのも、ずっと聞き続けていると、パーカーのアルトの音が鮮明すぎて、どこかしら金属的すぎて、サウンドに没頭できないのです。通常のスタジオ録音ではあたりまえのことですが、サックスの音が間近に迫るような録音は、パーカーには似つかわしくないような気がします。 パーカーの生のアルトの音というのは、野太すぎて何人も寄せ付けない強烈なものだとおもいます。もちろん真のパーカーフリークにはそこが良いのでしょうが、『音色が汚い』という人の意見も実は私にはわからないでもないです。 こんなこというと石を投げられそうですが、いてっ。 ・・・」

・・・いまみてもすごい暴言だとおもいますが、サックスの音が間近に迫るような録音はパーカーの本領をとらえきれない、という思いは今でも変わっていません。
ロス・ラッセルは「バードは生きている」のなかで、パーカーの音色について、思わずひざを打つうまい言い回しをしています。

「音は両刃を持っている。細い澄んだ音と丸味のある太い音が重なり合い、一つに融け合って一枚の音の織物を作り出しているのだ。一つの音は、同時に、くすんでいながら澄んでおり、暗く沈んでいながら白熱の輝きを発している。・・・」

Copyright (C) 2000 William P. Gottlieb
BIRD's rest in studio
まったくの余談ですけど、「パーカーの録音」でもひとつ引用させてもらってますが、この本の中でのパーカーについての表現というのは、わたしにはとうてい思い浮かばない、痒いところに手が届きながら、圧倒的に共感できる素晴らしい言い回しだと思っています。訳者の実力もあるんでしょうね。

それはさておき、このロス・ラッセルのことばを借りるなら、Savoyのスタジオ録音はその一方の「丸味のある太い音」の部分しかとらええきれていないと思っています。「細い澄んだ音」というのはライブなどでの会場の残響感をもとらえたオーディエンス録音にて100%感じ取れるのではないかと思うのです。

それならそれでSavoyのスタジオ録音では、その「丸味のある太い音」だけに注目してたのしめば良いのではないかと思うのですが、いかんせんSavoyのパーカーのその「太い音」自体がわたしは少々苦手でした。すごい生々しさと迫力を感じるのですが、その野太さと金属的なざらつきにヘトヘトになってしまうのです。また「丸みのある」という点でも多少違和感を感じます。Savoyの全スタジオ録音をヒートウェーヴ発売の「The Complete Studio Recordings on Savoy Years」に買い直してからはリマスタリングをかなり工夫したのか大分気持ち良く聴けるようになってきましたが、何時間も聴きつづけることは体調が良くなければやはり難しいことでした。

「Savoyのスタジオ録音の音が苦手」、これはパーカーファンの一人として実に悔しかったですね。内心忸怩たる思いをしておりました。さらに、うちのサイトのアルバム人気アンケートでは2001年11月の時点で「On Dial」が12票であるのに対して「On Savoy」がたった3票というありさまで、わたしが「Savoyのスタジオ録音の音が苦手」と公言してしまったのも多少影響があるのかな、と申し訳ない気持ちもありました。

そのような状況の中で「このアルバムはいいよ!」と言ってくれた方が数名いらっしゃいました。
そのアルバムがキング・レコードから1985年ごろに発売された「Direct from Original SP Vol.1(ダイレクト・フロム・オリジナル・SP)」です。貴重なオリジナルSPから音信号を拾い出し、ダイレクトにLPのマスターに音を刻み込むといった、今日のようなデジタル加工とは別の苦労をしながら作られたLPレコードです。余計なフィルタリング、デジタル加工をほどこさないサウンドは本来の音のバランスや美しさをとらえているとの評判でした。ただ私はレコード・プレーヤーを持っていなかったせいもあり今の今までそのLPレコードを聴く機会はありませんでした。

ところが昨日、某レコードショップでこのレコードの中古が500円で売られているのを発見しました。また、このレコードショップと同じビル内にあるオーディオショップでDENONの廉価版レコードプレーヤーが約10000円で売られているのを発見し、最近会社のボーナスがでたこともあり、10500円でこのレコードを味わえるのなら安いものだと判断してその場でレコードとプレーヤーを衝動買いしてしまいました。
ちなみに自宅にあるオーディオはJBLのベッキオA820のスピーカー、DENONのPMA2000のアンプ。マニア向けじゃないけど、六畳一間のワタシの部屋でジャズを聴くのにさほど問題は無い、普及版オーディオだと思っているのですが・・・。

さっそく聴いてみました。パーカーの音色が素直に身体の中に吸い込まれていきます。一回聴き通しただけではなかなかわからないのですが、いつしか何回もレコードをかけなおしている自分に気がつきます。全然耳が疲れません。
CDと聴き比べました。CDと比べたらこのレコードのほうが多少薄膜がかかったような感じだったり、ピッチが不安定なのは仕方の無いところです。ところがこのレコードではCDで感じていた金属的なザラつき、音色の鋭角的な感触が皆無です。パーカーの音色にやすりをひとかけしてすべすべになったような感じがします。弾力とまろやかさを感じます。そのため何度繰り返し聞いても耳に抵抗を覚えません。
パーカーの音の野太さはそのままに、讃岐うどんの喉ごしのようにするりと気持ち良く耳を通り抜けます。今になってはじめてこの気持ちよさを味わいました。「Donna Lee」「Blue Bird」「Ah-Leu-Cha」「Parker's Mood」・・・ああ気持ちいい。
また意外だったのが「Little Willie Leaps」でのパーカーのテナーの音色のコクが格段に深くなっていたことです。いまいちSavoyでのテナーによる録音は印象が薄かったのですが、少し考えをあらためました。

これらの音はパーカーの音色の一要素のみであって、様ざまな要素が組み合わさってはじめてパーカーの音色がみえてくる、とは今でも思っています。ただ今まで充分に楽しめなかったパーカーの音色の一要素を楽しめるようになったのは非常にうれしかったです。いまになってパーカーに対して新しい発見ができたのもうれしかった。

このレコードのシリーズはVol.1のままでどうやら止まってしまっているようですが、願わくばSavoyの全スタジオ録音について実現されんことを望みます。
・・・そりゃ無茶やろ。


2001.12.16 よういち

※このシリーズはVol.2まであるみたいです。Vol.2も良いですよ。(追記:2002.12.28)


Photos in this page is from "Herman Leonard Photography" by William P. Gottlieb
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